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「倉庫の中に証拠が大量にあるのなら余計な手間も省けて楽だな。さっそく連絡を入れて犯人の確保に乗り出してもらおう」
日暮園はスーツのポケットから携帯電話を取り出してどこかに電話を掛ける。電話の相手とのやり取りはもう突入して大丈夫だという連絡と、事件はこれで解決するという報告のみ。それが終わるとさっさと電話を切ってしまう。
「さて、帰るぞ。報奨金と給料の支払いについてはまた後日だ」
「あ、はい・・・」
いつもなら勢いよく突っかかってきそうなアトリエだが、今はどこか沈んだ様子を見せている。思い通りの反応がなくて肩透かしを食らったせいか、日暮園はアトリエの頬をいきなり抓る。
「いっ・・・痛いっ! 何するんですか!」
頬を抓る日暮園の手を払いのけ、ジンジンと痛みが残る頬を手で押さえながら声を荒げる。
「らしくなく、物静かだったからな」
「私はいつもこんな感じです! むしろ所長と一緒にいる土岐の方が私にとっては異常なんですよ!」
「そうだったか。だが俺にとってのお前は今のような感じが普通だ。いつもそれでいてくれると俺もいつも通りの調子でいられる」
「ちょっとくらい物思いにふけってもいいじゃないですか!」
「ああ、それは俺がいないところでしてくれ」
「・・・この、薄情者!」
「はっはっはっ、まぁそれはいいとして、俺はいいことを思いついた」
「嫌な予感しかしませんけど?」
「アトリエ君。君にカメラを貸し出そう」
「・・・はぁ、それで?」
「体育の時間の女子更衣室の様子が知りたい。これはとある事件解決に必要な重大な情報と手掛かりになるはず・・・」
「そんなことできるかぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
港の路上を歩く二人の掛け合いはいつも通り事務所で行われているやり取りの様相を取り戻していた。人にあらざる存在であることをより一層自覚してしまったアトリエにとって、このやり取りは自然と人間らしさを感じることができるものであり、彼女が心に抱え込んでいる悩みや重い感情が多少軽減され、さらに知事的とはいえ解放されるありがたい時間帯となっているのだった。
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