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お姫様はお静かに
担任が入ってしばらくして、自己紹介が始まった。
彼女の番が来た。
黒髪がさらりと揺れた。
「千歳さら沙です。
よろしくお願いします。」
綺麗な可愛い声だった。
小さくて、本当に鈴が喋ってるみたいだ。
その日一日中、俺はその娘のことが気になって仕方なかった。
照れ隠しに他の奴らにちょっかいを出して時間を潰した。
もちろん彼女に話しかける勇気なんてない。
けど、感じの悪かったイスがいつの間にか居心地の悪くない良い奴になっていた。
彼女は大人しいタイプみたいで誰とも話してなかった。
男と話してないのは安心だけど…俺はまた気になった。
(まだ笑顔、見てねぇな…。)
窓から入ってくる風が、またあの綺麗な髪をさわっていった。
見とれた。
その日はあんまり面白くない日だった。
みんな、あの大人しい黒髪美少女の根も葉もない噂をおもしろがってしていた。
それも普通の噂じゃない。
「昨日女の子ナンパしてたらしいよ」
「えっ?!」
「そ、それってどういうこと?どっからつっこんだらいいの?」
「うわ、俺ショックだな~。」
「こないだ男のカッコして歩いてたって聞いたぜ。」
らしい、とかどっかで聞いた、とか馬鹿馬鹿しいよな。そんなこと何も確証ねぇだろ。
俺はそう思って聞き流していた。
けど一人が
「あの娘、男ったらしなんだって。」
とかふざけた事まで言い出すから流石に俺は頭に来た。
"ガタッ!!"とあの感じが悪くなくなったイスの奴が後ろに倒れた。
「いい加減にしろよ。千歳のこと悪く言うんじゃねぇ!千歳がそんな奴の訳ねえだろうが!」
あたりが静まり返った。
女子が少し涙目で
「ごめんね…。」
と謝った。
「いや、俺じゃなく千歳さんにあやまれよ…。」
と静かに言った。
その時だった。
「うるせぇ。」
唐突に声が響いた。
声の主は…
彼女だった…。
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