特に何もない日常の始まり

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 外はちょうど明るくなってきたところだった。山影に隠れて薄暗かった家の周囲が、みるみるうちに明るくなっていく。  この生活を始めて見慣れた日の出の景色のはずなのに、この瞬間は何度見ても気分が良い。シャキッとした気持ちになる。  俺は白い靄が遠くに煙る中、白い息を吐きながら一人言を呟いた。 「さーて、何しますかな」  言ってることとは裏腹にやることは頭の中で決定していた。  まずは早速畑の方に……ではなく、何もない家の裏手へと向かった。 「……うん、霜がだいぶ減ってる。やっぱり今日辺りから始めるんで正解かな」  家の裏手は木が一本生えてるだけの何もない野っ原であり、だからこそ家の影になっていて霜が降りているか判断しやすい。  俺は地面の土を僅かに浮き上がらせている霜をザックザック踏みながら、状態を確認する。  昨年より寒い冬だったので時期が少し遅いのは覚悟していたが、サリィの妖精天気予報曰く「無駄にはしゃいでた氷の精霊が最近元気ないわね。そろそろ温かくなるんじゃない?」とのことだったので目算はついていた。  俺は今日からやっと仕事に取りかかれる、と浮き浮きしなら踵を返し、そこでさらに用事を思い出してその場で再度Uターンした。 「その前にちょっと小用をっと」  一本だけ自生している大きな木の根元へと近づくと、俺は周囲に視線がないことを確認してからズボンのチャックに手を降ろした。周囲もなにもここら辺に住んでいるのは俺とサリィだけなのでナニをしても見られる心配はないのだが、一応の確認である。  何をしているかは、まあ、聞かないでおくれ。 「……ふぅ、すっきりしたぞっと」  俺はサッとズボンのチャックをあげ、なぜかそこだけ霜が溶けて白い蒸気をあげている木の根元を背にした。実に開放的な快感があるので、癖になってしまっている。  俺は軽くなった下腹部を意識しながら今度こそ農機具のある小屋へと向かう。その途中で洗濯しておいた軍手を回収して歩きながら手につけた。  小屋は結構大きめに作ってあり、生活している母屋より一回り大きい。その中にあるトラクターや業務用冷蔵庫を横切って隅っこの細々とした道具置き場へと向かった。 「今日の仕事は畑の準備、かな」  そう言って俺は、がらくた置き場と化した道具置き場にちょこんと置かれている聖剣エクスカリバーを手に取った。
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