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……だけど……
「でも、父さん…俺ら跡継ぎ作れないけど」
俺のひとつの心配を、余計な言葉を挟まずに、ダイレクトに言った紘都。
言い難いことを、スバッと言う紘都の心臓には、絶対毛が生えてる。
「分かってるよ…別に跡継ぎなら、陽菜や桜太、あとは多分、柚乃のとこから生まれてくるだろ?未来、この世に誕生する俺の孫達が、何人かは絶対この世界の扉を開く……そしたら、お前達で育ててくれ」
「誰も興味を持たないかもしれないよ?」
そして、また言い辛いことをズケッと言う紘都。
「大丈夫だ、絶対に何人かはこの世界に飛び込んで来る…俺の孫だからな!それに、春翔や紘都がいい例だ」
絶対の自信を持つ父さんに、それ以上は口を挟まなかった紘都。
「…まあ、父さんの意志は尊重するよ」
「春翔はどうだ?」
『どうだ?』とは、デザイナーの話だろう。
「…うん、やってみるよ」
今よりも、もっと父さんの期待に応えられるように……
「…そっか…じゃあ、早速一着頼みたい…来年のショー様に」
「ええっ!?」
承諾と同時に依頼って……
流石だよ、父さん……
やると言ったからには、もう逃げられない。
父さんの部屋から、自分達の部屋に戻った俺たち。
早速、スケッチブックにペンを走らせるけど、これといったものが思い付かない。
「約一ヶ月後だね…そんなに難しい顔しなくても、メンズの時と変わらない要領でやれば、いいと俺は思うよ」
メンズの時と変わらないか……
紘都の言う通りかもしれない。
「ところで、紘都…明日どこか行くなんて話してたっけ?」
母さんにそう言っていた紘都の言葉を思い出し、問う。
「話はしてないかな?でも、春と行きたいとこがあるのは、本当だよ」
「…また、事後報告……まあ、いいけど」
にこにこ笑う紘都に溜息を付きながら、スケッチブックに視線を戻す。
ショーに間に合わすなら、デザインに時間は掛けていられない。
モデルとなる人物を思い浮かべ、ひたすらデザイン画を起こしてく。
それを深夜遅くまで続けた俺を、寝ずに少し離れた場所から、見守っていてくれた紘都。
目覚めたのは昼近くだった。
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