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イライラしながら大股で歩く俺の後を、紘都が追って来た。
「待って、春!ふたりで来いって言ってたでしょ?」
俺の肩を掴んで、俺の歩みを止めた紘都。
「…紘都が悪いんだろ…柚乃を喜ばす為に俺にちょっかい掛けるから」
俺の肩を掴む、紘都の手を引き離し、そっぽを向く俺。
「怒ったの?…確かに柚乃の反応面白いけど、俺が春に触れるのは、春に触れたいからだよ……こんなふうに…」
腕を引っ張られ、紘都の胸の中に抱き込まれ、俺の顎を掬いリップ音と共に、軽く触れる唇。
「誰が見てようと、見てなかろうと、春に触れたいと思ったら触れてるだけ……柚乃を喜ばす為じゃないよ」
それも、きっと事実なんだろうけど……
「父さんと、変な劇始めてた癖によく言うよ」
「あれは……まさか、父さんが乗ってくれると思わなくてね……何か楽しくなっちゃって…ごめんね…でも、嘘は言ってないよ」
そう言われると、何も言えなくなってしまう。
─ガチャ─
「お前らな、人の部屋の前で痴話喧嘩するなよ」
「ごっ、ごめん!」
まさか、父さんの部屋の前だとは思わなかった。
悪びれない様子の紘都を見ると、どうやら、それに気付いていたようだ。
気付いてて仕掛けてくるから、困る。
父さんの部屋に入り、紘都と並んでソファーに座る。
その向かいに腰を下ろす父さん。
「…春翔、お前ガールズのデザイナーもやってみないか?」
口を開き出た言葉に、俺の目が丸くなる。
「へ!?…な、何で突然、そんなこと」
「突然という訳じゃない…結構前から考えてた……今すぐどうこうじゃないが、俺が退いた後……デザイナーの俺の後を継ぐのは、春翔しかいないと思ってる…なら、今からメンズだけじゃなくて、どちらもこなせるようになっとけば、問題ないだろ?」
父さんの後を俺が継ぐとか、全くもって考えたことなかった。
「そして、次世のモデル育成は紘都に頼みたい…改めて言葉にしたことはなかったが、まあ…そうだな、約20数年後のCherry blossomは、春翔と紘都に託したいと思ってる…」
俺と…紘都に……
父さんの思いは、嬉しい。
自分が作った会社、ブランドを、息子に託したいと…父さんがそう思うレベルにいるのだと思うと、誇らしい。
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