シフトノブの温度

2/5
前へ
/5ページ
次へ
「この曲を聴くと懐かしい気がして胸が熱くなって涙が出そうになるの。特別な思い出とかないのに。ねえ、なぜだと思う?」  マッキントッシュのカーオディオから、マスカーニのインテルメッツォが穏やかに響き、夜を走る車の中を満たしている。  クラシックファンに有名なこの曲は、オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』の幕間に流れる間奏曲だ。宗教的な神々しささえも感じられる静謐なストリングス。オペラ・タイトルのイタリア語の密やかな響きと裏腹に、その内容は、男女の生々しい愛憎と決闘や殺人を描いた陰惨なものだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加