1.本の蟲

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扉をノックをすると、今度は「はい、どうぞ」と返事がかえってくる。 中には50代くらいの背の小さな初老がいた。 「やあやあ、樋口くんじゃね。よぉ来てくれた」 愛嬌のある笑顔の館長に手で示され、早苗はソファに座る。 書類を持って向かいに座る館長は、まず第一にこうたずねてきた。 「樋口くん、履歴書に書いてあった、運動経験有りというのは本当だよね?」 「……? はい。バレーと空手を少々」 「そりゃ、良かった、良かった」 館長は、ニコニコとうなずく。 「あの……私って、図書館職員に採用されたんですよね?」 「あぁ、そうじゃね。夜勤のね」 「……」 ニコニコとしている館長が、とたんに胡散臭く感じる。 「まぁ、虫とりの延長線上にあると思ってもらったらええじゃろ。 詳しい業務は柳田くんにきいてね」 「……?」 独特の岡山弁混じりの言葉が、優しく聞こえる反面、有無を言わせない。 早苗は「はぁ」と頷き館長室をあとにした。
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