1人が本棚に入れています
本棚に追加
「さあ、チビ。早く食事を済ませてください。トウキョウに出かけますよ」
「五日前に仕事が終わって帰ってきたばかりなのに、またトウキョウに行くのかぁ。めんどいな」
「仕方ないでしょう。私たちの仕事生命が掛かっているんですから」
俺は最後のパンの欠片を口に放りこみ、龍の刺繍の入った赤いスカジャンを着る。
「その街のチンピラみたいな格好はどうにかなりませんか?」
ノッポが眉をひそめ、何度目かの文句を言った。俺も何度目かの返事をしてやる。
「俺のポリシーだ」
「はいはい。わかりましたよ。それでは、せめて本物のチンピラみたいに喧嘩するのは止めてくださいね」
「おうっ! 任せとけっ!」
胸を張って言ったのに、何故かノッポはこめかみを指で押さえ、
「頭痛がしてくる…」
と呟いていた。変なヤツ。
そういうわけで、俺たちは樹海を出て、魔境と呼ばれるトウキョウへ行ったのである…と言いたいところだけど、俺たちって必ずトラブルに巻き込まれるんだよなあ。
樹海を出た頃はまだ昼間で明るかったが、車の姿はない。俺たちはビニールシートと枯葉で隠していた愛車でトウキョウに向かっていた。車は自殺志願者が樹海に入るときに捨てていったやつだから、結構イイものだ。
最初のコメントを投稿しよう!