ノッポとチビ

5/14
前へ
/14ページ
次へ
 隣でノッポはうたた寝をしている。俺は鼻歌を歌って、ガラガラの道路を気持ちよく運転している。ここまでは良かったんだ。俺がヒッチハイクしている男を見つけてしまうまでは。  その男は大きなリュックを背負った男で、なんだか放浪者らしい汚さだった。親切な俺は車を端に寄せる。男は急いで俺の傍にやってきた。目深に被っていた茶色の帽子を取り、もじゃもじゃ頭が出てくる。 「どうもぉすみません。トウキョウまで乗せてくれませんか?」  男は間近で見てもヒゲ面で、顔がわからない。声の感じから二十歳前後だと思うけど。 「俺たちもトウキョウに行くところだから、乗ってきな」 「ありがとう。僕の名前はホタ。君は?」 「俺の名前はチビ」 「チビ? 本当に?」  ホタは怪訝な顔をする。俺は慣れているので笑う。 「ああ。チビだ。深くは聞くなよ」 「オーケー。わかったよ、チビ。よろしく」 「よろしく」  ホタと握手をするが、思ったよりもゴツゴツしている手に驚いた。もしかしたら、力仕事をしているかも。  ホタは後部座席に乗り込み、再び車は走り出す。 「ところで、僕はお隣さんに挨拶したほうがイイかな?」  言われて見てみれば、珍しくノッポが寝こんでいた。いつもなら目覚めているはずだけど。  俺はちょっと考えて答える。 「別にいいんじゃん。どうせそのうち起きるだろ」     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加