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白い紙に水が落ちた。 「、、、桂ちゃん?」 水の正体は僕の涙だった。 「ごめん、なんで僕は泣いてるんだろう。あはは、また英梨の絵、滲んじゃったね」 涙が止まらなかった。 「桂ちゃん、、、」 なにも思い出せない。すべて忘れてしまった。 英梨のことも、英梨に愛されていたことも、英梨を愛していたということも。 僕のことなんて、この際どうでもいい。 せめて英梨のことだけでも思い出したい。 英梨を愛していたことだけでも思い出せれば。 「なにも思い出せない」 「桂ちゃん、もう、、、もう思い出さなくていいよ」 「、、、」 「いままでのことはなかったことにしよう。 それでまた2人で新しい思い出作ればいいよ。 今度はさ、絶対忘れないようにたくさんたくさん思い出作ろう?ねっ?桂ちゃん。 もう一度最初から」 もう一度最初から。 どんな思いでこの言葉を発したのか。 思い出を忘れた僕よりも、覚えているのになかったことにすることの方が何倍も辛いはずなのに。 僕は何度この人を傷付ければ気が済むんだ。 もう、終わりにしよう。 それに最初からは無理なんだよ。 気付いてしまったから。僕の本当の気持ちに。 気付かずに、通り過ぎてしまえば、どんなに楽か。 自分を騙せるものなら騙してしまいたい。 騙せないなら、せめて黙っていてくれ。 心の中の僕がポツリと呟く。 【僕はこの人を愛してない】 「英梨ごめん。僕は君を愛せない」
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