252人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな石片がラゼルの眼球の前を塞ぐ。同時にリュオは最低限の動作で天高くまで跳躍して視界から消える。
姿を隠すほどの石片が舞っていない。それならば、遠近感を利用して手頃な石片の裏に自分の存在を潜ませる。
ほんの一瞬でいい。リュオへの意識が外れた一瞬…その隙に宙を舞う石片を足場にしてリュオは加速していく。
現れるのは裏の裏をかいてラゼルの真正面から行く。そこで突き付ける、自分に勝つことが出来ないという事実を…
速力に任せてラゼルの正面に現れる。そして、その速力を乗せた蹴りでラゼルを貫こうとした時…小さな風を感じた。
ラゼルは読んでいた。リュオが真正面に現れることを…動作から出はない。長年の付き合いによる勘がそうさせた。
「…たく、嫌になるぜ。」
そう呟いたリュオの表情は何処か嬉しそうだった。同時にグレイプルの両翼を展開し、自身を制動して動きを止める。
そこに振るわれたポールアクスがリュオの胸板を皮一枚…いや、少量の肉を削ぎ落としながら突き進んで行く。
あのまま突き進んでいれば、リュオの半身は両断されていただろう。この程度の損傷で済んだのは幸いといえる。
「お前の全力に…俺は応える。」
リュオは全身の力を抜き…筋肉を急速に脱力させていく。闇に溶け…同化していくような静寂に身を投じていく。
これより繰り出すは、全てを叩き壊す一撃ではない。例えるなら居合、刀剣のように疾き鋭き完成された一撃。
ミシリと何かが壊れる音が耳につく。見れば、ラゼルが強引にポールアクスを反転させ第二撃を放とうとしていた。
あの体勢からの筋力に物を言わせた強引な二撃目。素直に驚嘆するだが、どちらが早いかは…語るまでもないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!