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同時にリュオの精神に先程までとは比にならない程の激痛…いや、痛覚かすらも怪しいほどの責苦に晒される。
言うまでもなく、聖獣を強引に四体も取り込んだツケ。魔王の感覚が流れ込んでいるのは間違いないだろう。
だが、その痛みすら呑み込もうと言わんばかりの気概と共に両眼が開く。瞳は龍種のように鋭く真紅に染まっていた。
「…俺の存在を賭けてでも貴様を絶望させてやる。」
極彩色の両翼が不死鳥…まるで朱雀の如く燃え上がり、爆炎の気流を轟かせながら爆発的に推進力を引き上げる。
それは人の領域を超えた神速。だが、相手も神の領域すら凌駕する神龍。魔王の速力について来れぬ訳がない。
その証拠に魔王の眼前にある左右の空間二箇所に亀裂が走る。そして、それを突き破るように巨大な鉤爪が現れる。
白銀の龍鱗に包まれた鉤爪が魔王を串刺しにしまいと迫る。続いて出現した二本目の鉤爪が抱き締めるように押し潰す。
だが、鉤爪達が捕らえたの魔王ではなかった。その両肩の延長上に展開された玄武の象徴である亀甲紋を象った障壁。
惜しくも、それは一秒にも満たない時間で粉砕されてしまう。だが、その僅かな時間ですら今の魔王には充分過ぎる。
「残念だったな。今の俺様ならコンマ一秒あれば、女だって抱けるんだよ。」
心底、どうでも良い知識だった。何せ、魔王が指一本動かすだけでもリュオは耐え難い程の苦痛に苛まれるのだ。
あまりの激痛に吐き気を催すのと同じ頃に、魔王は二本の鉤爪を突破してケルブの眼前にまで迫り来る。
「ユルムガルドォ〜、私を守れぇぇぇ!!」
虚空を突き破って三本目の鉤爪が出現する。それは敵に向かうことなく、ケルブを包みこむように防御を固める。
しかし、一秒が経とうとしても何も起こらない。直後、その背後でガラガラと何かが壊れる音が響き渡った。
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