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「…56…57…58…59…60。」
魔王が憑依召喚を試みて早一分が経とうとしていた。ユルムガルドに目立った変化は未だに生じていない。
「…自滅したか、愚かな。」
嘲笑い貶めようとするも、ケルブは無意識に安堵の笑みを浮かべてしまう。それ程までに予想外の事態の連続であった。
本来、ユグドラシルに蓄えた精霊力を使う予定ではなかった。だが、蓋を開けてしまえば最善の一手と言えるだろう。
何せ、一人の人間が聖獣を取り込んでまうなど誰が予想しようか?それも神龍にさえ抗おうなど悪夢でしかなかった。
今回の件で、ケルブの計画は大きく遅れるであろう。だが、最大の障害が消えた以上は挽回も容易いはずだ。
「次はアーエリアスでもけしかけるか…下地は既に出来あがっている。」
下卑た笑みを浮かべながら勝利を確信した時、ユルムガルドの口内から何かが勢い良く射出されるのが見えた。
このタイミング出て来るとすれば、考えられるのは一人しかいない。思わず、身構えるもそれは杞憂であった。
現れた魔王の姿は聖獣の力を全て奪い取られた状態。折れた腕こそ再生しているものの満身創痍であったからだ。
黒一色の漆黒の翼に傷だらけの肉体。腕や身体の再生した境目から流血が酷く、吹けば飛んでしまう程に弱々しい。
「フハハハハハハ…ヒッヒヒヒ。
笑わせるわ、取り込まれるのが怖くなって途中で引き返したか?」
これには笑うしかなかった。ユルムガルドの制御を奪い返すと意気込んだ挙句に精霊力の総量を見誤って退却。
進退は風の如しとは良く言ったもので、退却するタイミングを見誤った故に魔王は大半の力を失ってしまったのだ。
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