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「ククク…本当に笑えるよな。」
魔王の声には力もなければ勢いもない。だが、そのギラギラとした眼光は少しも衰えず…いや、むしろ増していた。
「何が引き返してきたか…だ?下らねぇ寝言は、コイツを見てから言え。」
その手に握られていたのは黒い金属片。それが自ら編成した術式…漆黒の鎖の欠片だと気付くのに時間は要らなかった。
「馬鹿な…ユルムガルドの霊魂に直接連結させていたのだぞ?
他者が…それも人間が服従召喚を解除するなど有り得ん…有りはしない!!」
ユルムガルドの全長が銀色の柔らかい光に包まれる。それは収束を始め、その姿を巨龍から人型までに縮めていく。
その姿は二十代後半に差し掛かった落ち着いた雰囲気…いや、神秘的な雰囲気を醸し出す成人美女であった。
青みの掛かった衣服の上には、若草色の外套が頭から羽織られているが透かしが入っているので内側は見える。
その下に金銀の装飾が惜しむことなく編み込まれた銀髪。木々の根を連想させる頭髪は枝分かれし膨大な毛量を誇る。
そして、頭髪に負けずに存在感を醸し出しているのが胸の上に聳え立つ双極の霊峰…言って仕舞えば乳房である。
そのサイズは今世紀最大の規格外。重力に負けそうなものだが、蔦のようなものが双極の周りを覆って支えている。
「私はユルム、傍観者なるもの。
人の子よ、またしても助けられたようですね。」
誰がどう見ても終焉であった。全ての生物の始祖にして最強の神龍が自我を取り戻したのだ…ケルブの勝利は消えた。
ならば、自分には何が出来るか?それは神龍を何とか言い包め、後はほとぼりが冷めるまで潜伏するしかない。
そうなれば、第一声として神龍を操ったことの妥当性を示す。そこまでの考えに至った時、魔王が想定外の行動に出た。
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