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だが、魔王が速力に任せて発動した多重残像からの乱打で発動を終える前に全ての魔法陣が叩き壊される。
口の中に鉄の味が広がり、何の前触れもなく天地がひっくり返ったと思えば景色が凄まじい勢いで流れていく。
次に流れゆく景色が急停止する。背面からミシリと骨が軋むような音が聞こえると胃液が逆流する感覚が押し寄せる。
その正体は大量の吐血。咳込みながら状況を整理したところ、殴り飛ばされてから背後に回られて追撃されたようだ。
「ぎざッ…ブバァアッ!!」
感情に任せて恫喝しようも、顔面に鉄拳の乱打が撃ち込まれて話すことすらままならいが…ケルブを倒すには至らない。
何故ならば、ケルブは魔導種のー超速再生(リジェネーション)ーを魔術式によって人間の身体に施しているからだ。
「…効かぬな。痛みなど、とうの昔に捨て去っておるのでな。」
そして、今の攻防でケルブは確信する。
魔王に自分を倒す術が…再生速度を上回るだけの攻撃手段がないことを。
「…赤の鉄拳。」
魔王の放った鉄拳が鳩尾を貫くほどの勢いで突き刺さる。仮に貫かれたとしても再生するので全く問題はない。
こうしている間に長距離の転移に備えて精霊力を溜め始める。逃げられた時の魔王を様子を見られないのが心残りだ。
「…赤銅の鉄玉。」
拳打によって下がった顎に、バク転の勢いを乗せた蹴りが炸裂する。顎が割れたのを感じるが既に再生が始まっている。
仰々しい技名を叫んではいるものの全てが単発で、ケルブの施した再生術式を上回るだけの破壊力はない。
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