~prologue~

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だが、蛮族の男は首を縦に振らない。眉間にシワを寄せて明らかに警戒している様子だ。 それも無理もないだろう。見知らぬ人物に騙されて部族の大半をうしなったのだ疑心暗鬼にもなるだろう。 「フーン…バカだね、意識だけは残してやろうと思ったのにサ。」 次に女性が見せたのは先程の無邪気な笑顔とはかけ離れたゴミでもみるかのような呆れ果てた表情だった。 「君に亜精霊を注入して、僕の従順な肉人形にしてあげるヨ。」 女性の表情が醜く淀み崩れていく。表面的な意味ではなく内面的な意味でこの上なく醜悪なものに変わっていく。 「あぁ、心配しないでいいヨ。仲間も一緒だから不安になる必要はないカナ?」 光が当てられている範囲が大きくなり、女性の背後にいる人影達の存在が明らかになる…それは部族の仲間であった。 ただし、それは表面的な意味であった。中身は打って変わった別物。表情に血の気はなく、至る所にある縫合痕。 その瞳には光もなく、まさに生ける屍。女性が口にした肉人形という表現がこの上なく相応しく感じてしまう。 今度の水音は途切れることなかった。 ガラスの容器内で奏でられては、新たな水泡が途絶えることなく作られる。 部族の仲間を肉人形にされてはそうなるのも無理はない。だが、族長は水泡を吐き出す理由はそうじゃない。 答えは単純にしてシンプル。自分が人ならざるものに変わっていく恐怖にも近い苦しみを味わっているからだ。 そして、水音が完全に消えた時…蛮族の族長は新たな肉人形として再誕した。
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