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「僕ね。未来から来たんだ」
桜太の言葉に、隣に座る一蔵はぽかんと口を開けた。が、すぐに吹き出して笑う。
「未来、未来ね。そいつはすげぇや」
大声を上げて笑う一蔵にむっとしながらも、桜太は言葉を続けた。
「出会ったときも変わった服装だったでしょ? それに……」
そう言ったきり、桜太は口を噤んでしまった。未来から来たことを証明する手段が何もないことに気づいたからだ。
だが、そんな桜太の真剣な雰囲気から何か察したのか、一蔵も笑うのを止めた。
「もし、本当に桜太が未来から来たっていうなら……日本はこの戦争に勝つんだよな」
一蔵は遠くの青空を眺めながら呟く。その視線は青空に、まだ見ぬ未来の風景を映しているようだった。
「日本は……負ける」
「……そっか」
迷いを含んだ桜太の言葉を聞いても一蔵は動じなかった。
「でも、日本が無くなってないならそれでいい」
空を眺めていた一蔵が桜太の方を向いた。
「未来の日本人は幸せか?」
「うん。戦争も無くて、平和で、食べ物にも困っていない。その気になれば毎日おいしい物を食べられる。でも……、でも僕は……」
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