其の二『瑠璃丸』

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春の息吹を感じる、柔らかで温かい風が俺の鼻をそよそよとくすぐった。 寝惚けまなこで、大きなアクビをひとつ。 もう昼か。 いつの間にか眠っちまったらしい。 ぽかぽか陽気に勝てる猫はいねぇ。 『招き堂』の戸口の横にある木の腰かけ。 三つ置かれた藍色の座布団。 俺はその真ん中を陣取り、店の番をしてやってたんだが・・・・・・ ゆっくりと身を起こすと、後ろ脚を片方ずつぴんと伸ばす。 すっかりなまっちまった身体をほぐすように伸びを繰り返し、店の中を覗く。 「お目覚めですか、十三郎さん」 福之助が俺に気づいて呼びかけてきた。 とんっと、腰かけから降りて店内へ入る。 客は相変わらずいねぇな。 福之助はというと、まだ招き猫をせっせせっせと磨いてやがる。 「なにしろ、これだけの数ですから。一日かけても終わるかどうか」 気の長ぇ話だな。 俺は自分一匹の毛づくろいで手一杯よ。 「お客様のもとへもらわれた時に薄汚れてちゃ困りますからね。それにね、こうして心を込めて磨いていると、猫たちも一生懸命『運』を運んでくれる・・・・・・そう思いませんか?」 福之助が手にしていた招き猫が、嬉しそうに目を細めた気がした。 なんとなくつられて横で毛づくろいをしていると、戸口の方で気配を感じた。 ようやくの客か。 人じゃねぇ、猫だがな。
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