其の二『瑠璃丸』

5/11

51人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「ご主人さんに傷を・・・・・・?」 「はい。ぼくは水から逃げることに必死になっていて。母さんの手に噛みつき、引っ掻き・・・・・・。ああ、何てことを!」 きつく目をつむり頭を抱える瑠璃丸。 だが、まぁ・・・・・・わかるぜ。 俺たち猫は本能が勝っちまうことがよくある。 福之助は小さく震え丸まった背に、そっと手の平を重ねた。 「瑠璃丸さん。辛かったでしょう。だけど自分を責めちゃいけません」 「・・・・・・」 「気持ちは前に。いいですね?」 「はい・・・・・・。福之助さん、こんなぼくに力を貸してはくれませんか。お願いです!母さんを傷つけるようなことは、二度としたくないのです!」 スッと顔を上げた瑠璃丸の表情は真っ直ぐで曇りがねぇ。 どうするんだ? 福之助よ。 「ゆっくりでいいんです。ゆっくり焦らず、一緒に歩いていきましょうか」 縁側にふわり吹き込む春の風。 湯呑みに浮かんだ桜の花が、くるりとまわった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加