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「ご主人さんに傷を・・・・・・?」
「はい。ぼくは水から逃げることに必死になっていて。母さんの手に噛みつき、引っ掻き・・・・・・。ああ、何てことを!」
きつく目をつむり頭を抱える瑠璃丸。
だが、まぁ・・・・・・わかるぜ。
俺たち猫は本能が勝っちまうことがよくある。
福之助は小さく震え丸まった背に、そっと手の平を重ねた。
「瑠璃丸さん。辛かったでしょう。だけど自分を責めちゃいけません」
「・・・・・・」
「気持ちは前に。いいですね?」
「はい・・・・・・。福之助さん、こんなぼくに力を貸してはくれませんか。お願いです!母さんを傷つけるようなことは、二度としたくないのです!」
スッと顔を上げた瑠璃丸の表情は真っ直ぐで曇りがねぇ。
どうするんだ?
福之助よ。
「ゆっくりでいいんです。ゆっくり焦らず、一緒に歩いていきましょうか」
縁側にふわり吹き込む春の風。
湯呑みに浮かんだ桜の花が、くるりとまわった。
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