其の二『瑠璃丸』

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「さあて。ではさっそく、風呂の準備でもしましょうかね」 「・・・・・!!」 ごくり・・・・・と、瑠璃丸の生唾を飲む音が聞こえてきやがる。 「まあまあ、そう緊張しなさんな。日本には色々な風呂の楽しみ方があるもんです」 「風呂を・・・・・楽しむ」 「ええ、そうです」 「少し準備が必要ですから、ごろ寝でもして待っていてくださいよ。・・・・・ええと、桶に手拭い・・・・・ああ、薬缶の湯は余っていたかな・・・・・ーー」 なにやら、ぶつぶつと独りごちながら奥へ姿を消す福之助。 瑠璃丸は不安そうな面持ちでそれを見送ると、深い溜息を吐いた。 「・・・・・母さん。ぼくは」 低く呟くと、また決心したように柔らけぇ拳をぎゅっと握りしめている。 だが少しするとまた溜息を吐き・・・・・を繰り返し・・・・・。 苦しそうだな、瑠璃丸よ。 福之助、何とか上手いことこいつの悩みを解決してやってくれ。 そう願っていると「どうも、お待たせしました」と、奥から福之助が戻ってきた。 びくりと肩を震わせた瑠璃丸だったが、福之助が持ってきた物を見て目を丸くしてやがる。 「福之助さん、桶と手拭いはわかりますが・・・・・そっちの、それはどういう・・・・・」 「ああ、これ。柚子ですよ」 「柚子・・・・・ですか?」 「ええ。いきなり湯を被るんじゃ敷居が高いと思いましてね。柚子を浮かべた足湯から慣らしていきましょう」 柚子湯とは、また面白ぇ。 どんなもんだ?
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