其の一『ハチクロ』

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都会の喧騒から電車に揺られ揺られて一時間。 ガタンゴトンと進むうち、いつの間にやらビルの谷間が深い緑の山あいに大変身。 窓を開けたら深呼吸。 ひとつ、ふたつ。 頬を撫でる春風と、澄んだ空気に心が洗われるようでしょう? 無人の駅で降りたなら、バスに乗り継ぎ三十分。 お地蔵様と大きな鳥居がお出迎え。 あと少しの辛抱です。 大きなクスノキ、見えました? 御名答、その温かくて何にもない停留所です。 空き地と空き地の間の道を・・・・・・ え? どこもかしこも空き地のよう? 馬鹿言っちゃいけません。 お家がぽつぽつ見えてきます。 八百屋の十兵衛さんを左に、喫茶店の来夢さんの角を右に曲がったら、小さなお寺が見えるでしょう? キンモクセイを辿って横の小路に入ったら・・・・・・ 遠路はるばる疲れたでしょう、『招き堂』はすぐそこです。 金を呼ぶ縁を呼ぶと評判の猫たちが、あなたのことを待ってます。 ところであなた、人ですか? いやなに、どうも珍客が多いもので。 ほら、今日も軒先で聞こえてきました、にゃあにゃあと。 それでは熱いお茶を用意して、のんびりゆったり待っています。
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