其の一『ハチクロ』

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薬缶の湯が沸く甲高い音が鳴り響く。 いつもなら毛を逆立てて飛び起きるところだが。 今日はうたた寝なんぞしてないからな、俺の勝ちだ。 渋い・・・・・・いや、爺臭いと言ってしまってもいい、年季の入った湯呑み。 それが三つ、ちゃぶ台に用意されている。 俺の分も淹れるとは。 爺臭いがマメな男だ、福之助。 しゅぽん!と茶葉が入った缶の蓋を開ける音。 茶葉をさらさらと急須に落とし薬缶を傾け熱々の湯を注ぐ。 ぼわっと立ち上る白い湯気に思わずジャブが出そうになるが、すぐに急須の蓋に閉じ込められてしまう。 仕方ねぇと大人しく手を引っ込め、横目で見やる。 「茶菓子はほら、白松ヶ最中です」 「にゃに?も、最中にゃ?僕は胡麻餡がいいにゃ!」 「はいはい」 早くも福之助のペースだな。 この男の不思議なところよ。 ほんわかしやがれ、ハチクロめ。 おっ、俺には大納言か。 わかってるじゃねぇか。 そうこうしているうちに、薄い草色をした茶が注がれる。 湯気とともに炒った玄米の芳ばしい香りがふわりと立ち昇り、俺たちは感嘆の息を一つ吐きながら目を細める。 「さあ、熱いですから充分注意してくださいよ」 丸い盆に乗せた茶と最中。 眠気を誘う日だまりの縁側へと運ぶ。 並んで腰掛け、まず一口。 ふうふう、ずずずっと恐る恐る。 「はあ、美味い」 「アチアチ!ウマウマ」 ほう、こりゃあいい。 乾いた草の上でうっかり眠っちまったような・・・・・・ 心の芯がほっと温められるられるような。 「最中くっつくけど美味いにゃ!でもくっつくにゃー!」 しばしゆったりとした時が流れゆく。 そろそろ頃合いなんじゃねぇのか? 福之助よ。
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