其の一『ハチクロ』

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「それでハチクロさん。なんだって家出なんかしたんです?」 「ーーにゃ!!そうだったにゃ。ウトウトしてる場合じゃなかったにゃ!」 とろんと眠そうな目を擦り軽く毛づくろいすると、背負ってきた風呂敷包みをごそごそやり出した。 何を出そうってんだ? 「これを見るにゃ!」 「それは・・・・・・」 「僕の嫌いな猫缶にゃあっ!!」 ハチクロのガキが取り出したのは、中身が出された後の空き缶だった。 『ねこまんま かつお』 ふん、別にいいんじゃねぇか? 「僕は『ねこまんま 極上ささみ』じゃないとイヤにゃのに!かつおはオエーってなるにゃ・・・・・・!マズイのにゃ!」 とんだグルメだな、若造が。 「僕が嫌いなの知ってて、さよりはかつおを買ったのにゃ!バカにされたにゃー!」 「さよりちゃんがそんな意地の悪いことしますかねぇ?」 「そりゃあもう意地悪な顔してたにゃ!!だから家出したのにゃ!さよりなんてもう嫌いにゃー!!」 最中をやけ食いしてやがる。 腹減ってんだろうが。 俺はかつおでも何でもいいじゃねぇかと思うがな。 さて、福之助よ。 この強情っぱりをどうするんだ? 「ふぅむ。この町で猫缶が売ってるお店は『ひまわり商店』ですかねぇ?ハチクロさん」 「・・・・・・そうにゃ。いつもそこの袋で買ってくるにゃ」 俺も知ってるぜ? 小せぇ田舎町だ。 確かに猫缶なんて売ってるのはそこだけだな。 「なるほどなるほど。ちょっと待っててくださいよ」 福之助は立ち上がると、戸棚から薄っぺらい電話帳を取り出した。 「ひまわり・・・・・・ひまわり・・・・・・。ああ、あった」 古臭ぇ電話の受話器を取り上げると、ぴっぽっぱと数字を押す。 「・・・・・・もしもし、どうも。ちょっとお尋ねしますがね、『ねこまんま 極上ささみ』は置いてます?そうそう、猫の缶詰めです。・・・・・・おや、そうなんですか。なるほど、明日・・・・・・。わかりましたよ、ありがとう」 かちゃんと受話器を置いて縁側に戻ってくる。 腰を下ろし、茶を一口。 「さてさて、ハチクロさん。思い出してもらいたいことがあるんです」 「にゃ?何のことにゃ?」
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