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「それでハチクロさん。なんだって家出なんかしたんです?」
「ーーにゃ!!そうだったにゃ。ウトウトしてる場合じゃなかったにゃ!」
とろんと眠そうな目を擦り軽く毛づくろいすると、背負ってきた風呂敷包みをごそごそやり出した。
何を出そうってんだ?
「これを見るにゃ!」
「それは・・・・・・」
「僕の嫌いな猫缶にゃあっ!!」
ハチクロのガキが取り出したのは、中身が出された後の空き缶だった。
『ねこまんま かつお』
ふん、別にいいんじゃねぇか?
「僕は『ねこまんま 極上ささみ』じゃないとイヤにゃのに!かつおはオエーってなるにゃ・・・・・・!マズイのにゃ!」
とんだグルメだな、若造が。
「僕が嫌いなの知ってて、さよりはかつおを買ったのにゃ!バカにされたにゃー!」
「さよりちゃんがそんな意地の悪いことしますかねぇ?」
「そりゃあもう意地悪な顔してたにゃ!!だから家出したのにゃ!さよりなんてもう嫌いにゃー!!」
最中をやけ食いしてやがる。
腹減ってんだろうが。
俺はかつおでも何でもいいじゃねぇかと思うがな。
さて、福之助よ。
この強情っぱりをどうするんだ?
「ふぅむ。この町で猫缶が売ってるお店は『ひまわり商店』ですかねぇ?ハチクロさん」
「・・・・・・そうにゃ。いつもそこの袋で買ってくるにゃ」
俺も知ってるぜ?
小せぇ田舎町だ。
確かに猫缶なんて売ってるのはそこだけだな。
「なるほどなるほど。ちょっと待っててくださいよ」
福之助は立ち上がると、戸棚から薄っぺらい電話帳を取り出した。
「ひまわり・・・・・・ひまわり・・・・・・。ああ、あった」
古臭ぇ電話の受話器を取り上げると、ぴっぽっぱと数字を押す。
「・・・・・・もしもし、どうも。ちょっとお尋ねしますがね、『ねこまんま 極上ささみ』は置いてます?そうそう、猫の缶詰めです。・・・・・・おや、そうなんですか。なるほど、明日・・・・・・。わかりましたよ、ありがとう」
かちゃんと受話器を置いて縁側に戻ってくる。
腰を下ろし、茶を一口。
「さてさて、ハチクロさん。思い出してもらいたいことがあるんです」
「にゃ?何のことにゃ?」
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