其の一『ハチクロ』

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「さよりちゃんの顔ですよ」 晴天を眩しそうに仰ぎ、呟く福之助。 空には白い雲がふわりふわりと浮いている。 「さよりの・・・・・・顔にゃ?」 「はい、そうです。さて、早速思い出してもらいましょうか。ほら、あの雲なんてどうです?さよりちゃんの・・・・・・あれなんて言いましたっけ。ああそうそう、ポニーテールに見えてくるんじゃないですか?」 「ふにゅ・・・・・・そう言われればそんな風に見えてくるにゃ」 あっちの雲はイワシに見えやしねぇか? ふわふわ空を泳いでやがる。 「それじゃあひとつ、お尋ねします。大好きな猫じゃらしで遊んでくれてる時のさよりちゃんは、どんな顔してました?」 「ふにゅー・・・・・・」 ハチクロのガキは短ぇ腕を組み、首を傾げてさよりの雲を眺めてやがる。 イワシは骨になっちまった。 俺がたらふく食ったのよ。 「にゃっ!」 おっ。 ピンときたか? さっさと聞かせろ。 さよりはどんな顔してたんだ? 「笑ってたにゃ!そりゃあもう楽しそうに笑ってたのにゃ!!僕がじゃれると、さよりも何だか嬉しそうにゃの!」 「なるほど、笑顔ですか。それじゃあ次の問題です。『ねこまんま 極上ささみ』をくれる時の顔はどうでしょう?」 ガキの好物だな? 「それはすぐ思い出せるにゃ!僕が美味しそうに食べるのを喜んでくれるから、ニッコニコなのにゃ!!」 「さよりちゃんはいつも笑顔なんですねぇ」 「そうにゃ!」 「じゃあ最後にもうひとつ。『ねこまんま かつお』をくれた時のさよりちゃんの顔です」 「にゃっ・・・・・・!?」 ほれ。 早く思い出してみろ。 お前の嫌いなものを、さよりはどんな顔してよこしやがったんだ? 「かつおの時は・・・・・・意地悪な顔してたにゃ!!」 「本当に?」 「本当にゃ!そりゃあもう意地悪な顔で僕のことバカにして・・・・・・ふにゅ・・・・・・?はにゃ・・・・・・?あれれ、違ったのかにゃ・・・・・・?」
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