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「ようく思い出してごらんなさい」
ハチクロの頭が麦の穂みてぇに、どんどんどんどん垂れていく。
「・・・・・・さより。悲しい顔してたにゃ。どうしてにゃ?」
福之助はガキの頭にぽん、と手を置いた。
「意地悪なんかじゃなかったんですよ」
「にゃ・・・・・・?」
「ハチクロさんも本当はわかってたはずです。さよりちゃんがそんな子じゃないって。だけど理由がわからなくて不安だったんでしょう?」
「僕、さよりに嫌われたんだと思ったにゃ。ワガママで甘えんぼで、さよりを困らせてばっかりにゃから・・・・・・!」
ゆっくり噛みしめるように首を横に振る福之助。
ガキの目には今にもぽろりと溢れちまいそうに涙が溜まってやがる。
「さよりちゃんはね、ハチクロさんのことが大好きなんです。だけど、ここ何日も極上ささみが品切れでしてね・・・・・・あれは仕方なく買ったかつおなんですよ」
「ふにゃっ!!そうだったのにゃ!?」
ほう、それでひまわり商店に電話していたというわけか。
「ど、どうしよにゃー!僕、家出しちゃった・・・・・・ホントに嫌われちゃったかもにゃの・・・・・・!イヤにゃ、イヤにゃあ!さよりのところに帰りたいにゃあ!!」
「安心なさい、ハチクロさん。きっと、もうじき・・・・・・ーー」
福之助が店に続く廊下を振り返ると・・・・・・
「すみません!!」
慌てたような客人の声が響いた。
「ほらほら、噂をすれば」
「さっ・・・・・・さよりの声にゃあ!!ふにゃあ・・・・・・ぼ、僕・・・・・・」
肩をすくめ、もじもじと水くせぇ態度のガキ。
主人のお迎えだろうが。
迷うことねぇ、行ってやれ。
福之助も大きく頷き後押しする。
「ハチクロさんが行きそうなところを捜してたんでしょうね。さよりちゃんが待ち兼ねてますよ。早く行っておあげなさい」
「にゃあ!!」
ガキは転がるように廊下に飛び出し、一目散に駆け出した。
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