其の一『ハチクロ』

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ひと足遅れて、俺と福之助が店舗に出向いた頃。 主人のさよりにどっぷりと甘えて抱きつく、ハチクロの姿が目に飛び込んできやがった。 「ハチクロ!ごめんね、ごめんね・・・・・・!急に飛び出して行っちゃうんだもん・・・・・・私のこと嫌いになったのかと思ったよぉ!」 「にゃあご」とひとつ、嬉しそうに喉を鳴らす。 幸せそうじゃねぇか。 俺まで心があったかくなっちまう。 「やあ、これはこれは、さよりちゃん」 「あっ、福之助さん!ハチクロがお邪魔していたみたいで・・・・・・。いつもありがとうございます!!」 ぺこりとお辞儀し、笑顔を見せるさより。 素直で礼儀正しい主人じゃねぇか。 「いえいえ、とんでもない。またハチクロさんと遊びに来てくださいよ」 「はい!」 「ああ、そうそう。今度は『かつお』も残さず食べるそうですよ。ねえ?ハチクロさん」 ハチクロのガキは照れくさそうに「にゃあ」と、ひと声返す。 「かつお?・・・・・・あれっ?私、その話しましたっけ?」 「おや。どうでしたかね」 下手くそなりに、とぼけて見せる福之助。 まったく、なっちゃいねぇ。 「ハチクロ、福之助さんに話したの?」 不思議そうに問いかけるさよりに、頬を擦り寄せ甘えるガキ。 「それじゃあまた」と、招き堂を後にする。 やれやれ、一件落着といったところだな。 縁側へ戻ると、福之助は置かれたままの缶詰をひょいっと取り上げる。 「言葉はわからなくても、心が通じていれば察しはつく・・・・・・そう思いませんか?十三郎さん。幸い人にはくるくる変わる表情や、声ってものがありますしね」 ふうむ。 確かにな、一理あるぜ? ようし、福之助。 お前の心の中を当ててやろう。 ・・・・・・ほっと胸を撫で下ろしたところで、もうひと休み。 どうだ? 「さすがですね、御名答。さあて、熱いお茶を淹れ直しましょうか」 其の一 完
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