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ひと足遅れて、俺と福之助が店舗に出向いた頃。
主人のさよりにどっぷりと甘えて抱きつく、ハチクロの姿が目に飛び込んできやがった。
「ハチクロ!ごめんね、ごめんね・・・・・・!急に飛び出して行っちゃうんだもん・・・・・・私のこと嫌いになったのかと思ったよぉ!」
「にゃあご」とひとつ、嬉しそうに喉を鳴らす。
幸せそうじゃねぇか。
俺まで心があったかくなっちまう。
「やあ、これはこれは、さよりちゃん」
「あっ、福之助さん!ハチクロがお邪魔していたみたいで・・・・・・。いつもありがとうございます!!」
ぺこりとお辞儀し、笑顔を見せるさより。
素直で礼儀正しい主人じゃねぇか。
「いえいえ、とんでもない。またハチクロさんと遊びに来てくださいよ」
「はい!」
「ああ、そうそう。今度は『かつお』も残さず食べるそうですよ。ねえ?ハチクロさん」
ハチクロのガキは照れくさそうに「にゃあ」と、ひと声返す。
「かつお?・・・・・・あれっ?私、その話しましたっけ?」
「おや。どうでしたかね」
下手くそなりに、とぼけて見せる福之助。
まったく、なっちゃいねぇ。
「ハチクロ、福之助さんに話したの?」
不思議そうに問いかけるさよりに、頬を擦り寄せ甘えるガキ。
「それじゃあまた」と、招き堂を後にする。
やれやれ、一件落着といったところだな。
縁側へ戻ると、福之助は置かれたままの缶詰をひょいっと取り上げる。
「言葉はわからなくても、心が通じていれば察しはつく・・・・・・そう思いませんか?十三郎さん。幸い人にはくるくる変わる表情や、声ってものがありますしね」
ふうむ。
確かにな、一理あるぜ?
ようし、福之助。
お前の心の中を当ててやろう。
・・・・・・ほっと胸を撫で下ろしたところで、もうひと休み。
どうだ?
「さすがですね、御名答。さあて、熱いお茶を淹れ直しましょうか」
其の一 完
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