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冬の日の殺人
夜道は怖い。
お化けは逮捕できないからだ、と思いながら、二ノ宮漱子(にのみや そうこ)は夜の住宅街を歩いていた。
気のせいだろうか。
後ろから、「アブラハムの子」の唄が聞こえてくる気がする。
子供の頃、よく学校などで踊らされる陽気な曲だが。
こんなところで聞こえてくると怖いな、と思ったとき、それに気づいた。
いつの間にか降っていたらしい雪の中、四つ辻の向こう、一際明るいコンビニの前に、灰皿で煙草をもみ消している男が居る。
肩がミリタリー調になっているグレーのコートを着た大柄な男だ。
顔は整っているが、少し野性味が強すぎる感じがした。
漱子が足を止め、見つめていたせいか、距離があるのに、男もまた漱子を見た。
その視線に引かれたように、男の近くまで歩を進めた漱子は彼に訊く。
「それ―― 貴方の煙草?」
と。
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