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現場には、かなりの数の警察官がいた。
休職中とは言え、内閣情報調査室長の息子で、現職警官の変死だからか、妙な緊張感が川原を取り巻いていた。
漱子は川辺に降りると、知り合いの刑事に軽い状況説明を受けた。
遺体の側に見知った人影がある。
榊蒼以だった。
側に補佐の各務と富田も居る。漱子もよく知る同世代の男女だ。
「榊」
そう呼びかけると、榊は、ちらと漱子を見たあとで、足許の青いビニールを顎で示した。
長細く膨らんでいるそれが人間だと感じられるのは、ビニールの端から鉛色のコートらしきものが、ちらりと覗いているから、それだけだった。
榊は上流の橋を見上げて言った。
「あそこから真っ逆さまだ。
見るか?」
「……けっこう」
そうか、元旦那だろうに、と、どうでもいいように榊は付け加えた。
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