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先月、母さんが病死した。
病気が見つかって、たった4ヶ月で天国へ逝ってしまった。
俺に遺した言葉は、「高校受験頑張って。無理してレベルの高い学校に行かなくてもいい。通いたいと思える学校に行きなさい。それは大学も仕事も同じだよ」ということ。それから、「お父さんを支えて、浩ちゃんを護ってやってね」ということ。
3つ下の弟の浩介(こうすけ)は明日で11歳になる。
親父は仕事だけどなるべく早く帰るというから、俺が浩介の誕生日の準備をすることにした。勿論、普段そんなことをしたこともないから、何をしたらいいのかもよく分かっていない。
とりあえず、折り紙で部屋の飾りを作って、買い出しに行って浩介の好きな晩飯を作ればいいだろう。メインはプレゼントとケーキだな。
張り切って頭の中で計画を練っていたら、母さんが「悠(ゆう)ちゃん、無理しなくていいんだよ」と笑ったような気がした。
母さんの口癖は「無理しなくていい。無理をすると、必ずしわ寄せがくるよ」だった。
だけど、母さんの死は俺には勿論だけど、まだ小学生の浩介には大きすぎることだ。
ここで誕生日をおざなりにしてしまうと、母さんのことを今以上に恋しく想って哀しくなるだろう・・・。
浩介は短気な俺とは違って、穏やかでいつもニコニコとしている温和な奴だった。
そんなところは、死んだ母さんによく似ていた・・・。
だけど、母さんがいなくなってから、その笑顔には陰りが見えていた。
そして母さんの話をしても、浩介は決して「お母さん」という言葉は口にしなかった。恐らく、言葉に出来ないのだろう・・・。
俺は誕生日くらい哀しいことは忘れて幸せな気持ちにしてやりたい、と心に決めていた。
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