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ドイル達は城を脱出し、北門へと馬を走らせていた。
「南門に現れた東国軍は数千と言っていたな」
「そうですね。北門には五千の兵を配置しています。南門に向かう途中で西門の兵士も加え、兄上が陣頭に立って挟み撃ちにすれば、ゾイと言えども撃退出来るでしょう」
「ゾイと言えば、東国軍で一度も撤退した事が無く、英雄扱いされている奴だな。忌々しい……捕えて牢にぶち込んでくれるわ」
怒りに任せて手綱を握り、北門まで駆けて行く。すると、慌てた様子の門兵が道を塞いだ。
「ドイル様、北門の前に大軍が現れました!」
「なんだと!?」
すぐに城壁を昇ると、理解しがたい光景が広がっている。
「サム、あの無数に見える桜が描かれた旗はなんだ!?」
「これは!? 東国とは別の軍が押し寄せているのか?」
目にしたものは、ユウリが先導した町民と、屋敷の者達が持つ桜の旗。
数こそ百名に満たないが、トウマは予め数名毎に細かい配置を指示していた。その為、夜の暗闇に間隔をおいて光るたいまつの灯りは、陣形を敷いた数千もの軍に見える。
そして、照らし出される見覚えの無い旗は、闇と共に未知なる恐怖を植え付けた。
冷静な判断が出来ずに立ち尽くすドイルを見かねて、ここまで意見しなかった親衛隊長のクラスが動きを見せる。
「ドイル様、これでは身動きが取れずに捕まります。幸い東門に軍がいるという情報は聞いておりません。ここは抜け道を通って脱出し、チョウキ様の下へ落ち延びて再起を図りましょう」
「……くそっ……しかたがない」
考える事を放棄したドイルとサムは、東門の近くにある兵士の休憩所へ駆けて行く。
指示を仰ぐ兵士の声を無視して休憩所に入り、クラスが本棚を動かすと地下への抜け道が現れた。
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