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歩けない。
今までは当たり前にしていた日常行動ができなくなった事は大きく、誰かの手助けが必要不可欠になる。
基本的におふくろがパートを辞め、介護の世話をするようになったが、肉体的にも精神的にも疲労する不平不満からイライラが募り、朝から晩まで金切り声が絶えない環境に陥った。
かつてない程に感じる重度の緊張感、家にいると動悸が加速し続け、寝る時以外は息が詰まる。
世の中、いくらでも上手く生きてる連中がいる。
それなのに俺は……本当にろくな事ばかり起きる人生を呪って惨めに感じ、舌打ちため息ばかりの毎日。
「どいつもこいつも死ねばいい」
俺が今一番口にしている言葉、自分の不幸をちぎりとって、誰ふれ構わず投げつけてやりたい衝動に駆られる。
家に帰るのが億劫になり、少しでも時間を潰すために車中で過ごす時間が多くなる。
狭いスペースが数少ない自分の安住の場所、無情に進むデジタル時計の数字をチラチラ見ながらの家路につくタイミングを見計らう自分に、嫌気がさす。
何をしているのだ、俺は。
やることなすこと全てがマイナス思考要素の強い内容ばかり。
こんな生き方をしていてはいけない、どこかでこの語るのもくそ鬱陶しい人生を逆転してやりたい。
しかしどうすればよいのか、まるで見当もつかず、頭を抱えて落ち込む日々の連続……
こんな酷い生活を繰り返す俺の身に、想像を越えた事態が勃発する。
十数年間、コピーしたみたいな日を繰り返してきたある日の帰宅。
同じように車をバックして停車し、ブツブツと呪いの言葉を口にしながら帰宅。
ろくにただいまの挨拶もせず、なるべく息を殺してそろそろと上がり、部屋に直行。
長年の息詰まる生活で身についた、物音を立てずに行動する姿は忍者というよりは、泥棒の類いに近いか。
俺が帰ったからと言って、おふくろもいちいち顔を出す事は滅多にしない。
大概は閉ざされたドアの奥から、ムダによく聞こえる声で罵倒の言葉を吐き、家の空気を震わせている。
ただ、この日は珍しくそんな声は聞こえてこず、静かな帰宅。
今日は機嫌がよいのか。
それならそれでありがたい。
いつも神経逆撫でされる声がない分、ホッとさせられる。
単純な発想で納得して風呂に向かう自分がいかにバカであったか……
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