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それをこれから確かめなくては…………
息を整え、意を決してリビングのドアを、そうっと開ける。
室内は真っ暗でよく様子がうかがえず、俺は目を細める。
目につくのは大きな介護ベッド。
リビングのおよそ3分の1を占める存在はイヤでも目につき、真っ先にうかがいしれる。
そのベッドに横たわる、布団にくるまった小さな盛り上がり。
親父が寝ているのか、ぴくりとも動く様子もない。
すっかりやつれた親父の姿をまともに見てはいない。
現在は40キロを切った枯葉みたいな体型を見るにたえず、ろくに顔も思い浮かばない現状。
介護ベッドの側には敷かれた布団。
おふくろが何かと世話をするのに効率がよいため、同じリビングで寝起きしている。
たが……おふくろの姿が見られない。
目をこらして見ても、リビングのどこにもいる様子はなく、親父の姿しかない。
……いないのか?
そうは言っても、時間が時間だ。
こんな夜中に1人で家を出る用事などない筈、しかしいないのもまた事実……
親父だけ残しておふくろはどこへ?
じっと横たわる親父を見つめながら、ふと違和感を覚える。
…………何だか、やけに静か過ぎやしないか?
布団にくるまって横たわる親父はピクリとも動く様子もない。
と、いうより、寝息も聞こえない。
寝息……そこから俺は連想が膨らみ、ハッとさせられる。
親父はそもそもは肺炎で入院したのが始まりだ。
最悪の事態は越えた親父だったが、肺炎が完治したわけではない。
その影響から、常に痰が絡まる症状が続き、就寝時には苦しげな寝息を立てている。
その独特の寝息が、ない。
なぜだ?
痰がとれたから?
そうだ、そうに違いない。
そんな筈あるか。
ただの一日で劇的に症状が改善するなど、あるわけがないだろう。
それならば、なぜ……
俺の中で芽生えた不安は次第に恐怖に変わり、意識せぬ間に足腰に震えを帯びていた。
まさか……まさか、だよな……
俺はゆっくりした足どりで介護ベッドに近寄り、横たわる親父を観察する。
仰向けに寝ていた親父の顔、すっかり見る影もない表情と出くわし、思わず悲鳴をあげかける。
バカか俺は。
自分の親父の顔見てビビるヤツがあるか。
弱腰の肝っ玉を奮い立たせ、さらに一歩、二歩と歩み寄る。
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