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おふくろは親父を殺害した容疑で緊急逮捕された。
あれから警察が家に駆けつけ、親父の遺体を収容し、俺はあれこれ質問攻めにされた。
おふくろは取り調べでポツポツと事件の経緯を供述しているらしい。
それによれば動機はやはり介護疲れからくる、突発的な犯行であった、というのが濃厚だとか。
凶器に使われた俺のベルトからはおふくろの指紋が検出され、その事に疑いの事実はない。
気になるのがその後の経緯であるが、犯行後おふくろは家を飛び出し、ヨタヨタした足どりで町中を彷徨い歩いていたらしく、いくつかの目撃談があったとか。
そしてなぜだか家からハサミを持ち出しており、自らの頭髪を切り落としながらの徘徊をしていたようで、足どりを示すように髪の毛が散乱していたとか。
なぜそうした行為に及んだのかわからなかったが、切り落とされた髪の毛がほぼ全て白髪であった事実を知らされて、言葉を失った。
おふくろはそれなりに年をとっていたが、まだ黒髪であった筈。
全体が白髪であったなど、そんなわけは……
この点の警察の見解は、犯行後、自分がやらかした行為に大きなショックを覚え、急激に白髪になってしまったのではないか……信じがたい見解ではあるが、それ以外に説明らしい説明もつけられず、宙に浮いたような納得のさせられ方となった。
徘徊の理由としては逃走というよりも、死に場所を探してのモノであるとの見方が有力視されている。
あちこち徘徊している最中に線路上に立ち入り、電車に跳ねられての自殺を図ったか……幸いにも、その前に保護されたわけだが。
「こんな人生になる筈じゃなかった。
あんな家に嫁いできたのがそもそもの間違いだった」
おふくろはそう供述して、泣き伏せたらしい。
小さい頃から耳にしていた。
若い頃は金を持った男達に言い寄られ、薔薇色の時代があったとか。
それがどうした経緯からか、ずっと年上であった親父と結婚に至ったわけだが……
それが間違いだというなら、俺という存在もまた、間違いだという事なのだろうか……
「今はホッとしています。
これでよかったんです、ひと思いに死なせてあげた方が、お互いによかったんですよ」
すっかり頭から髪がなくなったおふくろは、内に秘めていたモノを洗いざらい吐き出して、うつむいた……
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