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ボソボソとした話声は、笑ってるようにも聞こえた。
「先輩かな?」
「どうだろう」
「本物の幽霊とか?」
「まさか」
「早く行こうか」と友達は足早に歩き始める。ふっと雑木林の奥に、人影が見えて立ち止まってしまった。
「セイナ?どうしたの?」
「ごめん。行く行く」
「セイナの懐中電灯がないと先進めないよ」
「はいはい」
最後まで幽霊役の先輩は現れることもなくて、宿泊所の庭に辿り着いた頃には、花火が始まっていた。
クニヒロも、その輪の中にいた。あたしたちを見て、「あれ?お前ら今戻って来たのかよ」と笑った。
「みんなあたし達のこと忘れてたでしょ?」と言うと、「間違いない」と自信満々に言われて、持っていた花火を一本、あたしにくれた。
その隣に立っているのは、マネージャーの女の子。
さっき、あそこでクニヒロとキスしてたくせにと、あたしは思うだけで言わなかった。
その頃のあたしは男の子と手を繋いだことも、キスさえもしたこともなかった。
だからか、その光景は、あたしの中に深く深く焼き付いて、しばらく頭の中から離れずにいた。
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