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雨がやんだから帰れとクニヒロは言った。
彼の唇を見た。それからスラリと伸びた手。
あの肝試しの夜に、その手は、あの子の頭の後ろに回して、引き寄せる為にあった。
唇だって、そうだ。あの子に触れるためにあった。
初めて人がキスしているところを見たから、ずっと忘れられないのだと思っていた。
だけど彼の家を出てから、まるで地面に力を吸い取られてしまったみたいに弱々しい足取りになって、驚く。
そして、気づいてしまった。
そのままゆっくり蹲り、頭を垂れた。つま先の先にはできたばかりの水たまりにキラキラと太陽を反射しても、あたしの顔は明るく映さない。
キス、したかったんだ。あたし、きっと。
あの子みたいに。あんな風に彼と唇を重ねてみたかったんだ。
だけど、気づいたって、どうしようもない。
呟くと、哀しみで視界が揺れた。
だって、その手は、唇は、少しもあたしを欲していない。
そのくらいは、わかっていた。
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