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彼と出逢ったのは、あたしがまだ両手を合わせた指の数でおさまる歳の頃だった。 当時所属していた、小学校のミニバスケチーム。すごく強いわけでもないけど、チームのみんなは仲良しで、練習は楽しかった。 そこに、彼はいた。 家が五丁目であること。クニというあだ名であること。二つ上のとんちゃんという女の子に、手作りのクッキーを渡されたことがあるということ。 話すこともないのに、あたしはそのことを知っていた。それは、小学校の近くにある富樫さんの家で飼われている犬の名前がクルであるということを知っていることと同じことだった。 彼が言った言葉の中でひとつだけ印象に残っている言葉がある。 ミニバスの練習が終わった体育館の外にある水飲み場の蛇口をひねって、水を飲んでいた。 その日は夏日で、持ってきてた凍らせていたはずのスポーツドリンクのペットボトルはすぐに溶けて、飲み干してしまった。 口を拭っていると、「なんて読むの?」と男の子の声がした。 振り返ると、彼がタオルを首に巻いて立っていた。 少し火照って暑そうな顔をしている。 「なにが?」 「名前。なんて読むの?」 彼の視線は、あたしの足元にあった。バッシュのかかとに書いてある名前を気にしたと気付いた。
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