馬車旅

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       ―狩猟地区の道―    ミナの一行と別れたサリたちは、チュウリ川に沿ってユーカリノ区を抜け、レシェルス区へと入った。 聞いていた通り、深緑から突然黄葉に変わって、サリは歓声を上げた。 窓に貼りついてその光景を焼き付けるようだ。 同乗していたリザウェラは、その様子にゆったり笑みを浮かべる。 さきほどまでの緊張感がなくなり、今は興奮状態だが、落ち着けば、少しは肩の力も抜けているだろう。 レシェルス区に入ってしばらく行ったところで昼になり、昼食のためにサリたちは食堂に立ち寄った。 そこでは、やはり東側にあるザハノ渓谷の噂でもちきりで、水量が減っていることもだが、獣たちが逃げてしまったことについて話されていた。 サリにとっては初めて聞く話で、けれど彩石との関係があるとは思われず、困惑していた。 それを見て取り、ハロルディン・ノーストリオ…ハルは言った。 「気にしても仕方がない、とにかく今は食べて、渓谷に向かおう」 サリはその言葉に頷き、運ばれてきた料理をしっかりといただいた。 食事が済むと、すぐに馬車に乗り、サリたちは一路ザハノ渓谷へ。 チュウリ川から外れて、東側へ向かうレシェルス区の道は、なだらかだが傾斜が多く、幅が狭くて、対向する馬車が来ると、待避所へ入らなければならない。 サリは、さきほど食堂で聞いた話題を忘れ、絶壁側をすれ違う荷車や客車を物珍しげに眺め、それ以外は、反対側の川の流れが見える谷を眺めてと忙しい。 「素晴らしいですわね…!ミナの言った通り、木々の重なりに絶妙な趣がありますわ…!これも人の手で作られたものなのでしょうか…?」 「人の手で作ったというよりは、人の手を加えたのですよ。獣が住みやすいように、けれど生活する者が困らぬように、そしてなにより、壊れないように」 リザウェラも士官学校で学んだので、その程度は知っている。 「そんなにも気を使っているのですね…」 サリは少し沈み込むようだった。 それほどまでに手をかけた土地が、彩石ひとつで脅かされるなんて。 彩石も悪いわけではないのだ。 ただ自然に出現しているだけなのだから。 サリはまた窓の外を見る。 「そうですわ。水量が減っていると聞きました。どのくらい減ったのでしょう?」 リザウェラはサリが見ている方の窓に寄って谷を眺めた。
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