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彼方の場景
―ザハノ渓谷 Ⅰ―
傾斜のほとんどを上り、サリたちが宿に着いたのは15時の茶の時間帯だった。
サリは、スエイドに荷物を置いてもらうと、早々に部屋の外に出て、スエイドと、待っていたリザウェラとともに、宿の外に出た。
ほかの側宮護衛団の面々…ハルと、カーライト・ヘルイスト…カルと、マラート・クウェメント、メイニオ・カロナイアは、宿に残ることになった。
宿のすぐ外は、やはり黄葉の美しい道で、本道までの短い距離を歩くと、片方の山側に土産物屋、もう片方の渓谷側に、宿が建ち並んでいた。
南北に通る表通りを歩く人は少なく、サリはまず北側に歩くことにした。
宿の並びの向こうに、空いた箇所を見付けたからだ。
行ってみると、そこはすぐ下から遠くまで、渓谷の全景が見渡せる露台だった。
「まあっ…!」
少し大きな声を出して、柵まで走り寄る。
切り立った崖は迫力があり、そこにまで生える木々は重なり合って、明暗を落とし、木によってまったく違う黄の色合いは目に楽しく映るのだった。
目を上げてそこにある山々を見れば、黄葉に覆われ、近くにあるものとは違い、輪郭が曖昧で、霞むような黄色の連なりだった。
「まあ…途中で見た谷川とは全く違いますのね。光の加減が…こんなにも違う光景を見せるのですね。谷川の方は木漏れ日が美しかったですけれど、陽の光をいっぱいに浴びている様子は…輝いて、辺りを照らすようです…!」
そして断崖の険しさが恐ろしさをもって迎え、心の震える景色だった。
サリはじっくりとその景色を眺め…北側から、手前の南側へと目を移したとき、薄赤く光るものがあることに気付いた。
それは赤いというより薄紅色で、手前の枝に隠れてよく見えない。
思わず身を乗り出したとき、リザウェラに腕を掴まれ、危ないですよと言われた。
「その…あそこに何かあるのが気になるのですわ。薄紅色をしていて、何か違うのですもの」
「そうですね…明日、下りられたらあそこまで行ってみましょう。今日のところは、それほど時間もないようです」
サリは瞳を輝かせて、はい!と返事した。
それから3人は、すぐ横の茶屋で、サリは甘味と葉茶をいただき、リザウェラとスエイドは葉茶だけをいただいた。
そのあと今度は宿街の南側に行って、帰りは裏通りの店を覗きながら宿に戻った。
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