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宿の談話室に入った3人は、低い椅子に座ってひとやすみする。
息をついて、落ち着いたサリは、首を傾げて言った。
「有名な観光地のはずですのに、平日だからでしょうか、人が少なかったですね?」
それに、店員も覇気がなく、むしろサリたちがいることを不審がっている様子だった。
「人が近付けなくなったからでしょう。この宿も閑散としている」
スエイドに言われてサリは赤面した。
「そうでしたわ…わたくし、聞いていたのに、気付かないなんて…」
スエイドは、通りがかった女中に声をかけ、最近のこの辺りの様子を聞いた。
「まあ…、彩石のせいですね。お客も減ってしまって…平日でももっとお客がいるものなんですけど、うちなんかは予約取り消しや、すぐ帰ってしまわれたりで…。女中まで、数人来られなくなって、頭を痛めているところなんです」
「獣も減っているとか?」
「ええ…、それも頭痛の種で、うちは猟師から肉を買っているんです。それが…」
言いかけて、女中は、はっとしたように急に笑顔を作った。
「お客さま方のお食事にはきっちり新鮮な肉を用意しておりますよ。西の方から取り寄せています」
西とは、チュウリ川を挟んだレシェルス区の西側のことだ。
スエイドは、それは安心だと笑って見せて、それで、と話を元に戻した。
「猟師は今はどうしている?」
「さあ…聞いた話では、狩猟以外の副業…木材の加工でしたり、焼き物…陶磁器なんかです。それの手伝いなどしているそうなのですけれど、客が来なければ木工品も陶磁器も売れませんもの、うちと同様、先が見えない状況です…ああ、でも」
女中は急に明るい顔になった。
「つい先日、猟師たちに国から招集がかかったそうですわ。詳細は判らないのですけれど、政王陛下が動いてくださっているのでしょう」
スエイドは、それは良かったと言い、女中に、仕事の邪魔をしてすまない、と話を切り上げた。
その女中と入れ違いに、カル、マラート、ハル、メイニオが来て、近くの椅子に座った。
「さきほどステュウと連絡がついた。ミナは今、結界石のところに行っているとか。宿には一旦着いたらしい」
「そうか、よかったな。問題ないか?」
「ああ。そっちは何か発見でもあったか?サリ」
ハルに聞かれて、サリは肩を落として言った。
「何も見付からなかったように思いますわ。何か、探す当てでもあればよかったのでしょうか?」
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