彼方の場景

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「そういえば…でもそれ、私、商売する腕がないです。どう売り込んだものか」 その頃には選別師で充分になっているはずだ。 「うーん、選別師としての資格貰って、普通に選別師として職探しするしかないかな」 「それなら風の宮で雇おう」 「えっ」 固まるミナを見てデュッカは目を細めた。 「いやなのか?」 「いえっ、その…選別師なんて要るんですか?」 「要るだろう。大体は選別場で選別しているが、特別な石はマニエリが選別していた。元判定師の判定ならば不足はあるまい」 マニエリとは、城駐選別師マニエリ・スピナのことだ。 王城の依頼で選別作業、そのほか、選別師資格試験の作成などもしていて、現在は、今までできなかった、完全体と不完全体の区別を、ほかの選別師たちに指導している。 「えっ、えっとう…そっ、そこまで甘えるわけには…」 「そこまで?別段甘えられてはいないが」 「えっ、えと、馬車の振動を消してくれたりとか…」 「好きでやっている」 「さっ、採石してくれたりとか…」 「それも好きでやっている」 「はっ、はあ…」 ミナはそれ以上言うのはやめた。 これ以上好きでやっているなんて聞いていたら…混乱する。 単に気紛れで、好きでやっているのか。 特別な思いを抱いているのか。 それに気付かない振りをいつまでするのか。 いつまで、一緒にいていいのだろうか。 「それで、来る気はあるのか?風の宮に」 「えっ、…」 断る理由が思い付かない。 「えっと…、その時が来ないと判りません…」 苦し紛れにそう言う。 デュッカは目を細めてミナを見た。 「いやなのか?」 「えっ、いやってわけでは…」 「ではなぜ断る」 困り切って、ミナは言った。 「分かりました、行きます…」 デュッカは頷いて、では決まりだ、と満足そうに言った。
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