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旅立ちの朝
今日はサリとミナが遠征する出発の日だ。
大事な役目を任された身としては緊張する。
王城の玄関前で、サリはアークに両手を握られ、無理しないように言われた。
「大丈夫ですわ!」
緊張しすぎて少し大きな声を出してしまったが、アークは強く両手を握り返して、うん!と言った。
用意された馬車に乗り込んで、扉の窓からアークを見る。
目が合うと、にこりと笑って手を振った。
サリも手を振って応えると、馬車が動き出し、前を見る。
今回サリが預かった仕事は、母や姉ならば容易に済むこと。
これを無事果たして初めて、自分は今の役職に恐れを抱かず、向き合えると思う。
緊張した面持ちのサリに、同乗するリザウェラが少し笑って、今からそんなに緊張していては身がもちませんよ、と言った。
もっともな話に、サリは、そうですわね、と少し笑った。
それから深呼吸して、馬車の背もたれに身を預ける。
今回デュッカがいないので、振動する馬車は、それでも配慮が行き届いており、居心地はよい。
サリは扉に設えてある透明の硝子窓から、通りすぎる街並みを眺めた。
そうしていると、ザクォーネ王国で街の様子を眺めていたことが思い出される。
あのとき、町を見て、ひとを見て、自分は、何かを得た。
心に深く残るもの。
それが、力を形作る。
カィンやミナの顔が思い出された。
「…あちらに着いたら、少し街を見てみたいのですが…」
そう言うとリザウェラは、わかりました、と了承してくれた。
そんなに長い旅ではない。
けれどきっと、深く心に残る旅になるだろうと思えた。
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