彼方の場景

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やはり匂う。 「イルマ、嗅いでみて」 サイセキを渡すと、イルマは鼻へ近付けて、匂いを嗅ぐ。 少し顔をしかめて顔から離したあと、シャクヤの香りですねと言った。 悪い香りではないのだが、鼻を近付け過ぎて強く感じたのだろう。 「この木シャクヤっていうの?」 「ええ、この辺り一帯はシャクヤのようです。いくらか違う木もありますが」 「どうした?」 デュッカが声をかけてきたが、ミナにもこれが何なのか判らない。 「判りません。ただ、妙な感じがこの石からするんです。存在を訴えかけるような…」 ミナは辺りを見回して、ほかの彩石を探した。 それはすぐに見付かり、ミナは森のなかへ入ろうとした。 だが、デュッカに腰をとられて動けなかった。 「まず何をしたいか言え」 ミナは赤面し、そうですよね、と言った。 以前にもこの会話をした覚えがある。 成長していない自分に冷や汗が出る。 「えっと、この先にこれと同じように存在を訴えかけている彩石があるので、取りに行きたいなと…ついでに、普通の彩石もあるのでそれも取りたいなと」 「俺が行く」 (そば)に来ていたセラムが言って、どこにある?と聞いた。 「正面の少し奥と、こっちから見てその右手。出来れば幹も少し削って欲しい」 「分かった」 そうしてセラムが持って来てくれた彩石の匂いを嗅ぐと、片方は最初の彩石と同じ匂いがし、片方は無臭だった。 「何か意味があるか?」 デュッカに聞かれたが、正直判らない。 「彩石判定師室にこれと同じものがあるかもしれません。帰ったら確かめますが、とりあえず持って帰ります」 ひとりでは持てなかったので、デュッカにも持ってもらい、ミナたちは馬車に戻った。 特性の違う彩石はある。 彩石湯で使っている石などだ。 彩石湯とは、ユーカリノ区のチュウリ川近くにある、ランプ亭という宿で作られている、彩石の力を混ぜ込んだ湯で、特性…効果の違う土の彩石を熔かして作る。 効果の違いは熔かしてみるまで判らないそうだ。 だが、彩石湯で使っている石は、採石場から拾ったもののはずだ。 特性の違いは出現する場所とは関わりがない。 さきほど採取した、存在を訴えない方の彩石は、ただの土の彩石だ。 存在を訴える方の彩石は、同じ土の彩石だが、どうも、木の感じがする。 削ってもらった木の欠片のようだ。
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