彼方の場景

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ミナがじっと彩石を見ていると、デュッカが、ぽん、とミナの頭に手を置いた。 「王城に帰れば判るかもしれないことを、今から悩むな。巡視に専念しろ」 ミナは、はい、と言って、窓の外を眺めた。 だが頭はこの不思議な彩石のことでいっぱいだ。 例えば、個人に合う、合わないといった違いや、使用法に対する向き不向きの違いはあるが、出現した箇所にある物の特性を持つ彩石はない。 そのはずだ。 確かにデュッカが言った通り、調べてみなければ判らないが、はたして資料は見付かるだろうか…。 ミナは彩石判定師室にある膨大な彩石の標本を思い出して肩を落とした。 探せる気がしない。 あればいいが、ないことを確かめるのは難しい。 「…そう思いつめるな。おまえが全部やらなくていい。こういうことは資料を収集している者もいれば、研究している者もいる。それらの者に任せておけ」 ミナはデュッカを見た。 そういえば、王城書庫に務める者は、各地の情報を集めていると聞く。 彩石の情報も仕入れているかもしれない。 ミナは少し元気になった。 「そうですねっ、案外聞いたら判っちゃうかもしれませんね…期待しすぎかな」 「ひとりで考えているよりはいい。資料が見付からなければ、人を割いて探させればいい」 「えっ、そんなことしていいんですかっ」 「彩石判定師の名はただの飾りではない。そのことを、おまえは充分証明してみせた。そろそろ使うべきだろう」 デュッカはまた、ぽん、とミナの頭に手を置いた。 「少しは人に頼ることを覚えろ」 「えと…各地で結構人使っちゃってますが…」 「それは頼っているのではなく当人たちの役目で望みだったろう」 ミナは思い出す。 そう、あれは彼らの役目で、望みでもあった…。 「おまえの望みを叶える役目の者もいるんだ。俺は好きでやっているがな」 ミナは突然びょくっと身動きした。 デュッカの目が細められる。 「あっ、ありがたいと思ってます…」 デュッカは両腕を組んでミナをじっと見た。 「そうか?では態度で示してもらおうか」 「必要ありません、それこそ好きでやっているんですから」 間髪を容れずイルマがそう言い、デュッカを睨んだ。 デュッカは窓の外を見て溜め息をついた。 ふたりきりのときに言うのだった。 「あのー、できることならしますよ?」 イルマがものすごい勢いでミナを見た。 その目は、だめ、と言っている。
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