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―分岐―
ユーカリノ区の半ばまで来た頃。
2台の馬車は一旦止まった。
なかの者が腰を伸ばすためと、馬を休ませるため、そして、別れの挨拶をするため。
そこには茶屋があり、サリとミナ、デュッカと、サリの護衛のリザウェラ・マーライトとマゼラスエイド・サーゴイル…スエイドと、イルマ。
イルマと同じくハイデル騎士団のセラム・ディ・コリオとパリス・ボルドウィンが共に店内に入った。
サリとミナは甘味と葉茶を、デュッカは豆茶を求めた。
ほかの者たちはそれぞれ飲み物を求めて、動きやすく、店内とその入り口を見張れる位置に座った。
「以前来たときも思いましたが、ユーカリノは緑が濃いですわね」
アルシュファイド王国はチュウリ川を中心に、南から北まで、5区画に分かれている。
南から、王都である交易地区レグノリア。
採石地区ユーカリノ。
狩猟地区レシェルス。
農牧地区ボルーネ。
北港は漁労地区フェスジョアとなっている。
そして、南北を往き来する者には広く知られていることだが、レグノリア区は若葉の新緑、ユーカリノ区は緑の濃い深緑、レシェルス区は輝く黄葉、ボルーネ区は燃えるような紅葉、フェスジョア区は落ち着いた朽葉の色をしている。
「そういえば、地区ごとに違う色してたかな。私はボルーネ区に近いフェスジョアの出身だから、普段から2種類見られたよ」
まあ、そうですの、とサリは話だけで感動した様子。
ミナはちょっと笑って、これから行くところはまた違う色だろうね、と言った。
「紅か黄だったような。渓谷は美しいだろうね。木々の色の重なりが深く明るくあるんじゃないかな。どうかな」
そして思い出しながら言った。
「私のいたところは…そうだ、ボルーネは赤だった。黄金色の畑や、山や丘の草の緑、フェスジョア区の朽葉色、って、いろんな色が重なり合って、人と自然の調和のようで、見ているの好きだったな」
「まあ…わたくしも見てみたかったですわ」
「見られるんじゃない?すごくゆっくり進むんだけどね、観光船があるんだよ。零の月は休みでもあることだし、真昼(しんちゅう)にでも乗ったら、いつでも、変化するところとかも、見られるよ」
零の月は、最初の5日間は紅月も出ない闇夜の真夜(しんや)だが、明けた6日目から10日までの5日間は陽の落ちない真昼なのだ。
そしてこの10日間は、多くの職業で休日となっている。
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