馬車旅

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「えっへん!」 デュッカは嫌そうな顔をして手を離した。 王城ではもう少し触れていられた。 息を吐いて、デュッカは窓の外に目を移した。 蛇行はもう少し続いて、彩石の泉を通り抜ける。 昼に近くなった頃、開けた場所に来て、ずらりと宿が並ぶ通りが現れた。 「わあっ」 その変わりようにミナは思わず声を上げ、窓に近付いて外を見た。 いつも行っていたユウフラムという、チュウリ川の西にある宿町とはまた雰囲気の違う通りだ。 そのうちひとつの宿の前に馬車が止まると、馬を下りたスティンが、ここで食事を摂る、と言った。 「荷物はここで降ろす。今日からここに泊まるから。ステュウとヘルクスは宿に残る」 ステュウとヘルクスはよい組になりそうだ、とミナは思った。 ステュウ・ロウトは、風の力が強く、制御が難しかったため、その気はなくとも色々な音を拾ってしまっていて、最初、仲間とは離れがちだったが、最近は距離が縮まったようだ。 そんななか、ヘルクス・ストックの落ち付いた空気は、ことさら彼に安らぎを与えているように感じる。 風の者は、音だけでなく、周囲の者の感情も拾うのだ。 「分かった。食堂どこかなあ」 言っていると、ミナ、とアニースに呼ばれて、宿のなかに入った。 その宿は、全体に黒い内装で、だが入ってすぐの中庭に面した、大きな硝子窓から陽の光が入って、充分に明るく、また落ち付いた色合いだった。 わあ、と感動していると、再び、ミナ、と呼ばれて、慌ててそちらの方へ行く。 宿の食堂は大きく、ほかにも数人の客がいた。 ミナは、デュッカ、イルマ、セラム、パリス、アニース、スティンとともに机に着いた。 ほかの者たちはすぐに来るということで、先に料理をいただく。 献立は、ヒュミと川魚と山菜とロルの定食で、多種類の山菜を揚げたり和えたりしており、見栄えも味も良かった。 全員の食事が終わって、茶をいただくと、13時に再び出発する。 今度は、結界石である、礎と楔を目指すのだ。 「久し振りだな」 窓の外を見ながらそう言って、ミナは空いた時間を遡ってみる。 ザクォーネ王国、セルズ王国、サールーン王国、カザフィス王国。 以前に国内の結界石を見て回ったのは、およそ4ヵ月前のことだ。 あれからたくさんのひとに会ったな、と思う。 目を閉じて静かに深呼吸する。 大丈夫。 旅に出る前に、充分に休んだ。 目を開けるとデュッカと目が合った。
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