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「分かったわ。他を探すわ」
早くこの頭のおかしい白衣野郎と同じ空間から出たくて飛びだした。
そして飛びだした瞬間、私は頬をつねる。
だって、目の前には私の家があったのだから。
後ろを振り向くと、もうその白衣やろうとの空間はどこにもなくなっていた。
まだ、夢をみているような、狐に抓まれたような不思議な時間だった。
それから私は、その夢のお告げを守り、貞操を大事に大事に守り、奥ゆかしい日々を過ごす――訳はない。
「ねえねえ、さっきからそこのイケメンが伊織さん見てますよ」
「えーやめてよ。どれどれ?」
売れたお土産を、下の引き出しから在庫を取り出しつつ辺りを見渡す。
すると若いスーツ集団が、キャリーケースを持ってお土産屋に入ってきた。
「左から順に、済、済、済、独、済、独、独」
指輪の有無で、既婚者か独身かを、同じく婚活中の緑ちゃんが言い当てていく。
「良いスーツ来てますよね。話しかけちゃいますぅ?」
「ごめん。緑ちゃんだけでどうぞ」
私の今の声は、酒焼けした場末のスナックのママみたいな悲惨な声をしている。
マスクをして風邪だとアピールしたいのだけど、マスクは禁止だから悲しい。
「なんの集団なんですかねえ。緑、真面目で女慣れしてなさそうな簡単な男がいいですう」
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