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空港の近くのホテルのロビーに私はタクシーで駆けつけた。
時間は21時を回ったところで、そのホテル内のレストランは殆どがラストオーダーが終わっているのは調査済みだ。
唯一25階にあるBARが開いていることまで確認している。
「伊織さん」
エレベーターが開くと、息を切らして現れた男。鷹上 啓一。
地元の朝と夕方のニュースキャスターをしている渋くてちょっと悪そうな38歳。
有名大学卒業、年収ウン千万、おまけに髭が似合うダンディなイケメンの癖に身体はしっかりした筋肉と、女性のエスコートが上手でおまけに……。
「伊織さん? どうしたんですか?」
じいっと顔を見つめながら分析に夢中になってしまったことに気付き慌てて紙袋を取り出す。
「す、すいません。またお会いできると思っていなかったので。これですよね。啓一さんのお要望の『春夏秋冬(ひととせ)』」
紙袋の中には、四季を表した和菓子セット『春夏秋冬』が二箱。
ここら辺では直営店がなく、唯一空港内の高級和菓子店『濡れ椿』でしかお目にかかれない品だ。
「ああ。本当に助かったよ。入院中の母が最近食べたい食べたいううるさくて」
財布を取り出そうとした手を、私は掴むと首を振る。
「貴方の助けになれただけで嬉しいの。……渡してさよならってことはないですよね?」
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