土曜日のお茶

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 やって参りました、土曜日。  髪の毛はハーフアップにしようとして、カーラーで髪を巻こうとする自分に気付いて手を止める。  頑張らない頑張らない。私は頑張らないぞー。  我ながら、何だか妙な自己暗示を掛けていると思うが、それでいて服装は何度もチェックしてしまう。 「里香、こんな時間からお出かけ?」  洗面台の鏡を睨み付けていた私に、洗濯物カゴを持って入って来た母が声を掛けてきた。  今日は午後の待ち合わせだ。  たいていの場合は友達と会う時も、一人で出かける時も午前中から行くことが多いので、午後から準備する私を不思議に思ったのだろう。 「うん」 「夕飯は?」 「家で食べます」 「あら、そう」  そう言いながら母は私の姿を上から下へ、下から上へと視線を移しつつ無遠慮に見てくる。 「そんな服、持っていたかしら?」 「つ、つい最近、買ったの」 「そう、なかなか可愛いわね。今日はお友達と会うの?」  母は微笑んでいるのに、目だけ追求する刑事の眼差しになっている気がするのは私の被害妄想でしょうか。 「あ、ありがとう。旧友とお茶するの」 「そう言えば、二、三日前に昔の同級生に会って遅くなると連絡くれたわね。その人?」 「うん。あ、ほ、ほら。久々だし? それに外出する時は少しくらい小綺麗にしておかないとね?」  別に母は問い詰めたりはしていない。  なのに目を逸らして、しなくてもいい言い訳をしてしまうのはなぜだろう。 「あら、そう」  えーっと、お母様。  何を笑っていらっしゃるんでしょうか。 「ゆっくりと楽しんでいらっしゃい」  母はにっこり笑って送り出してくれた。  誰かと会うのに緊張するのは久しぶりだ。あるいは初めて降りる駅に心細さを感じているのかもしれない。  ドキドキしながら改札を通ると。 「佐藤!」  真上君はすぐに私に気付いてくれたらしい。  彼の声にどきっとしながら視線を移す。  手を挙げて笑みで迎えてくれる真上君は緩みのあるカーゴパンツにジャケットを合わせていた。  カーゴパンツは下手をするとだらしなく見えるが、彼の長い足にはその緩みさえすっきり見せている。  うぐっ。  イケメンはどんな姿でも格好いいってズルいじゃないか。こっちは何を着ていこうか悩んでいたというのに。  若干、妬みながら真上君を見つめていると彼はこちらに近付いて来る。  私も我に返ると彼の元へと歩いて行った。
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