土曜日のお茶

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「そう言えば、真上君ってシステムエンジニアだったよね。忙しくないの?」  今度は私から話題を振ってみることにした。 「まあ、忙しいよ」  友人の彼氏もSEで、仕事は激務で休みもなかなか取れなくて会えないと愚痴られた記憶がある。すれ違いで別れを決める人も多いとか。  それに一日中デスク仕事だから色白で、とてもじゃないけどジム通いする時間などないからメタボ体形らしい。当然お洒落にも気を遣わない。  つまり、世間一般のSEはこんなに格好いいはずがない!(完全なる偏見) 「以前は会社勤めだったけど、今はフリーランスだから時間は比較的自由なんだ。契約によって会社に出向したりもするけど」 「フリー? 無職?」 「……フリーランス。特定の企業に従事しないで、個人事業してるってこと」 「ええ、もちろん存じておりますとも」  わざと言ったんだい。  澄まし顔してみせた。 「でもフリーランスって、そう簡単に仕事をもらえるものなの?」 「会社勤めの時の実績と人脈があるし、俺は超優秀だから」  にっと笑う真上君。  容姿が良くて、性格良くて(これはまだ分からないけど)、さらに優秀な人材で。  天は二物も三物も与えるのですね。  ――神様の意地悪! 「ソーデスカ。素晴ラシイデスネー」 「反応、冷たい冷たい!」  棒読みの私に苦笑いする真上君を軽く受け流して尋ねる。 「どうしてその職業を選んだの?」  すると彼は真っ直ぐにこちらを見つめてきた。 「りかが好きだったから」 「え?」  急に出て来た自分の名前にどきりとして、ゼリーを口に運ぼうとした手を止めた。  彼は少し笑って続ける。 「理数系が得意でさ。営業ってタイプでもないし、パソコン相手にしている方が性に合っていたから」 「あ、ああ。なるほど」  そっち。そうですか、理科ってわけですか。ソーデスカ。……びっくりさせんな馬鹿!  勝手に勘違いしたのに、何だか嵌められた気がしてムスっとしながらゼリーを口に含む。  しかしすぐに大人げないなと思い直して、自分の名前の由来について話してみることにした。 「奇偶ね。父も理科が得意で私の名前はそこ――」  あ、れ。確かいつかの日も誰かに説明して、そしたら彼は。……彼?  その人は今よりも幼くて、もっとふっくらしていた男の子で。そう、目の前の――。 「もしかして真上君に言ったこと、あった?」 「そうだな」  彼は微笑した。
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