土曜日のお茶

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 そうだ。昔、そういう会話を真上君と交わしたんだ。それから仲良くなって。……それからどうしたっけ。 「佐藤?」  彼の声にはっと我に返る。 「あ。よ、よく覚えていたね」 「覚えているよ」  そもそも佐藤が覚えていなさすぎと真上君はため息を吐いた。そして再びこちらを真っ直ぐに見る。 「りかが好きになったのはそこからだから」 「そーですか」  はいはい。  りかりか言わないで欲しい。理科だって分かっていても心が乱れるから。  気分を逸らすために、再びゼリーにスプーンを入れる。 「奇偶じゃない」 「ん?」 「佐藤の名前が里香だったから、理科が好きになったんだ」  それって……。 「今でも好きだよ、りか」 「――っっ」  何それ、卑怯モノ! 「佐藤、顔真っ赤」 「こ、このゼリー、リキュールが入っていたの!」 「へぇ。それぐらいで酔えるなんて羨ましいな」  膨れる私に彼は悪戯っぽく笑った。 「大体ですね。こんな所でそういうこと言いますか!?」 「佐藤のこと、全力で口説くって言っているだろ」  それ、まだ続いていたんですか……。 「と、とにかくこれからスイーツに集中したいから『りか』ワードは禁止ね! 言ったら口聞かないから!」 「はいはい。分かった分かった」  何だか子供のような捨て台詞を吐く私に、彼は苦笑して両手を挙げた。  ブッフェが終わり、会計の段階でひと揉めしたが、今回はご馳走になることとなった。  そしてホテルのエントランスを出た所で。 「あのさ、佐と――」 「やだ。雨が降ってる。今日、雨の予報だったの?」  重く暗い雲で覆われた空から落ちてくる雨に気付いて、私は声を上げた。 「え? ああ、本当だ」  朝は天気だったし、服装に気を囚われて天気予報をチェックしていなかった。だから傘は持っていないけれど、幸いにもまだ小雨だから駅までの間はしのげそうだ。 「その様子だと傘を持っていないみたいだな。俺の住んでいる所、すぐそこだから来ないか? 傘貸すよ」  彼は隣の建物を指して言った。  こんな近くに住んでいるのか。駅からのアクセスも良いし、外観からも立派なマンションであることが窺える。きっと良いお部屋に住んでいるんだろう。  ――あ。ではなくて。 「大丈夫よ。駅まで歩いても数分くらいでしょ? まだ小雨だし、ばーっと走れば大丈――えっ」  私が最後まで言い切る前に、彼は私の指先を握りしめた。
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